塩谷(しおたに)十三仏種子板碑 (兵庫県神埼郡市川町上牛尾)
十三仏種子を一尊一石で刻んだ珍しい板碑。関西の十三仏遺品では最古級の室町時代前期 応永二十年(1413)(胎蔵界大日)の紀年銘がある。
塩谷(しおたに)十三仏種子板碑群 (県指定文化財、室町時代前期、凝灰岩、高さ 90~130Cm 下幅 12~23Cm)
塩谷(しおたに)十三仏種子板碑群 (県指定文化財、室町時代前期)
板碑は上方に各々の十三仏種子が刻まれ、中央の阿弥陀石仏を挟んで左右に四基ずつ計八基が現存し、五基が不明。
向かって右から⑦.七七日(薬師)、⑤.五七日(地蔵)、 ⑨.一周忌(勢至)、⑩.三回忌(阿弥陀)、阿弥陀石仏を挟んで⑪.七回忌(阿閦)、
⑫.十三回忌(金剛界大日)、⑬.三十三回忌(胎蔵界大日)、⑧.百ヶ日(観音)の順に安置されている。(○内番号は、十三仏の順序)。口
十三仏は、死者の追善供養のために①.初七日(不動)、②.二七日(釈迦)、③.三七日(文殊)、④.四七日(普賢)、⑤.五七日(地蔵)、⑥.六七日(弥勒)、⑦.七七日(薬師)、
⑧.百ヶ日(観音)、⑨.一周忌(勢至)、⑩.三回忌(阿弥陀)、⑪.七回忌(阿閦)、⑫.十三回忌(大日)、⑬.三十三回忌(虚空蔵)の十三仏事にわりあてられた仏・菩薩をいう。・・
最初の十仏は、閻魔王など十王の本地仏を、①初七日(不動)から⑩三回忌(阿弥陀)までに当て、この十仏に⑪七回忌 阿閦、⑫十三回忌 大日、⑬三十三回忌 虚空蔵を加えたのが十三仏。
本板碑群の年代は全国的にも古く、十三仏の仏尊が定型化する前の段階にあたるため、三十三回忌の仏尊は阿閦如来ではなく胎蔵界大日種子(アーンク・五点具足)になっている。
十三仏種子板碑群、 向かって右側の四基 (県指定文化財、室町時代前期)
向かって右から⑦.バイ(七七日・薬師)、⑤.カ(五七日・地蔵)、 ⑨.サク(一周忌・勢至)、⑩.キリーク(三回忌・阿弥陀)。
十三仏種子板碑群、 向かって左側の四基 (県指定文化財、室町時代前期)
向かって右から⑪.ウーン(七回忌・阿閦)、⑫.バン(十三回忌・金剛界大日)、⑬.アーンク(三十三回忌・胎蔵界大日)、⑧.サ(百ヶ日・観音)。
その内、⑫.金剛界大日(バン)種子板碑に応永二十一年(1414)、⑬.胎蔵界大日(アーンク)種子板碑に応永二十年(1413)の紀年銘がある。
塩谷(しおたに)十三仏種子板碑群 (県指定文化財、室町時代前期)
また、⑨.勢至(サク)種子板碑と⑪.阿閦(ウーン)種子板碑に「常念 逆修」と刻まれており、「常念」が生前に自らの供養のため本十三仏板碑を造立したことが分かる。
十三仏信仰は、初七日から三十三回忌に至る十三回の供養仏事に十三の仏・菩薩をわりあてたものであるから本来は追善と
してのものではあるが、十三仏板碑としてはほとんんど、生前に自分自身ために法事を行う逆修(預修)として造立されている。
十三仏順序 | 名 称 | 種子 | 忌日・忌年 | 身部の梵字 | 願文 | 紀年銘 |
5 | 地蔵種子板碑 | カ | 五七日 | 光明真言 | 三十五日逆修 | |
7 | 薬師種子板碑 | バイ | 七七日 | 光明真言 | 四十九日逆修 | |
8 | 観音種子板碑 | サ | 百か日 | ア・ビ・ラ・ウーン・ケン | 逆修・善根 | |
9 | 勢至種子板碑 | サク | 一周忌 | キャ・カ・ラ・バ・ア | 一周忌常念、逆修善根 | |
10 | 阿弥陀種子板碑 | キリーク | 三年忌 | バン・ウーン・タラーク・キリーク・アク | 第三年、逆修善根 | |
11 | 阿閦(あしゅく)種子板碑 | ウーン | 七年忌 | キャー・カー・ラー・バー・アー | 七年忌、常念為、逆修善根 | |
12 | 金剛界大日種子板碑 | ウーン | 十三年忌 | キャク・カク・ラク・バク・アク | 十三年忌、逆修 | 応永二十一年(1414年) |
13 | 胎蔵界大日種子板碑 | アーンク | 三十三年忌 | バン・ウーン・タラーク・キリーク・アク | 三十三年、為逆修善根 | 応永二十年(1413年) |
塩谷(しおたに)十三仏板碑群 現存碑一覧
同時代の作品に、十三仏を像容で一尊一石形式で刻んだ深谷 十三仏 石仏(応永十四年:1407年、山口市)がある。塩谷十三仏板碑群と安置された地形・場所が驚くほど似てる。
また、関東地方の武蔵型板碑では、ほとんどが十三仏種子を一石で刻んだもので、同時代の代表的作品としては、清谷寺 十三仏種子板碑(応永六年:1399年、東京都)がある。
塩谷(しおたに)十三仏種子板碑群、後列に安置された新しい石仏
現地 説明文
塩谷(しおたに)十三仏種子板碑群 (県指定文化財、室町時代前期))
参考文献:「塩谷の十三仏種子板碑群」(田岡香逸 著 『史迹と美術 335号』・「十三仏信仰と大阪の庚申信仰」(奥村隆彦 著 岩田書院)
*JR播但線 甘地駅前から市川町コミュニティバス(運行は火・金曜日の週二回2便)に乗車、「塩谷バス停」下車 徒歩 約5分。バス停付近に案内標識がある。
(撮影:平成27年11月13日)