法願寺跡(高木地蔵堂)(埼玉県さいたま市西区大字高木446)
脇侍に梵字「カン」・「ウーン」を刻む珍しい板碑で、主尊が欠けているのは惜しまれる。鎌倉時代後期 嘉暦四年(1329)の紀年銘がある。
法願寺 三尊種子断碑(中央)(市指定文化財、鎌倉時代後期 嘉暦四年 1329年、緑泥片岩、高さ 67Cm 下幅 39Cm)
惜しくも上半を欠失する。身部は二重線の輪郭を巻き、上方に三尊の脇侍(「カン」・「ウーン」)、下方に光明真言と紀年銘を刻む。 |
種子や光明真言がしっかりと薬研彫され、美しく仕上がっている。
三尊 種子
主尊は蓮座の痕が残るのみ、脇侍は向って右に「カン」、左に「ウーン」を刻む。
梵字「カン」は、金剛護菩薩・馬頭観音などの意があり、「ウーン」は阿閦如来・降三世明王・金剛牙菩薩などを表す。
いずれにしても、下方の光明真言と相まって、密教系の板碑と思われる。亡失した主尊は、金剛界大日如来がふさわしいと思う。
ただ、金剛界曼荼羅 成身会では、北方「不空成就如来(アク)」を囲む四仏に金剛護菩薩(カン)・金剛牙菩薩(ウーン)の両尊が配されている。
刻銘:「嘉暦二二(四)秊(年)、己巳、五月八日」 | 身部下方の刻銘 |
身部下方は、中央に「「嘉暦二二(四)(1329)秊(年)、己巳、五月八日」、左右に各二行「光明真言」を刻む。
光明真言
光明真言:「オン、ア、ボ、ギャ、ベイ、ロ」「シャ、ナ、マ、カー、ボ、ダラ」 「マ、ニ、ハン、ドマ、ジンバ、ラ」「ハラ、バ、リタ、ヤ、ウーン」
光明真言は、「不空羂寂毘廬舎那仏大灌頂光明真言経(ふくうけんじゃくびるしゃなぶつだいかんちょうこうみょうしんごんきょう)」に出る陀羅尼で、
光明真言を誦(じゅ)して土砂を加持し、それを遺体に散ずれば、罪障を除き西方極楽浄土に往生できると経に説かれている。板碑では、普門寺阿
弥陀一尊種子板碑(文永七年 1270年) や大英寺阿弥陀一尊種子板碑(文永十二年 1275年)等が早期のもので、14世紀に入ってから多発する。
法願寺跡(高木地蔵堂)(埼玉県さいたま市西区大字高木446)
阿弥陀種子を主尊とする板碑で、室町時代初期 応永三年(1396)の紀年銘がある。
法願寺 阿弥陀一尊種子板碑(市指定文化財、室町時代初期 応永三年 1396年、緑泥片岩、高さ 53Cm 下幅 21Cm)
頭部山形、下に二条線、身部の輪郭はなく、上方に阿弥陀の種子「キリーク」、下方に「応永三年(1396)、十月、廿一日、口、口」の紀年銘を刻む。
身部下方の刻銘
刻銘:「応永三年(1396)、十月、廿一日、口口」
法願寺(ほうがんじ)板碑群(一部)(市指定文化財)
最大高の阿弥陀三尊板碑に向って、左側に立つ板碑四基。
*JR川越線「西大宮駅」下車、北西方向へ徒歩 約14分。
(撮影:平成25年3月8日)