薬師堂(やくしどう)(兵庫県加西市北条町東高室)
同じ境内に立つ阿弥陀三尊種子板碑の一年後、弘安三年(1280)の紀年銘がある。刻銘部は、加西市史 別巻「加西の石仏」のカラー写真が見事に撮っている。
薬師堂(やくしどう)種子断碑 (鎌倉時代中期 弘安三年 1280年、凝灰岩、高さ 63Cm 幅 44.5Cm 厚さ 19Cm)
薬師堂境内、北東角に立つ。地元産 高室石の板碑で、上半を欠き、頂部に別物の笠を載せる。残部は、種子の左右と下方に刻銘がある。 |
種子は、上方に梵字のウ点だけが残り、下方は大きく「サン」を刻んでいる。左右の刻銘はウ点の横から下に刻まれており、種子が二尊以上刻まれていたと思われる。
[ 但し、「加西市史」では、種子を「アン」(胎蔵界 阿弥陀如来)とし、本板碑を阿弥陀如来種子板碑としている。]
種子は、空点・荘厳点の下の梵字が「ア」であれば「アン」、「サ」であれば「サン」になるが、見た限りでは「サン」と思われる。梵字「サン」
は、勢至菩薩や阿弥陀如来の種子として「梵字講話」(川勝政太郎 著)や「板碑の総合研究 総論編」(坂詰秀一編)で紹介されている。
板碑 頭部
頂部は折損し、梵字のウ点(梵字「ウーン」の下部等にみられる尻尾状の点)が残っている。
梵字 「サン」
「サン」は、随求小咒や勢至菩薩の真言にでる梵字で、勢至菩薩や阿弥陀如来の種子として稀に使われる。
真言では、荘厳点(梵字「サ」の上 横に一)はない。
向って左側刻銘:「往生極楽故也造立之」 | 向って右側刻銘:「右志者過去 刑部真口」 |
一般的に願文が主尊の上に刻まれることはなく、ここでは願文が梵字「サン」の上から刻まれていて、二尊以上の梵字があったと思われる。
刻銘は、「往生極楽」の文字が刻まれ、浄土信仰系の願文となっている。
板碑 下方
刻銘は、向って右に「弘安参(1279)」、左に「八月十三日」と刻む。
東高室 薬師堂
*北条鉄道「北条駅」 下車、南方向に約1.6Km。加西警察署・加西消防署 南側の道路を署から西へ約200m行くと、左側にこんもりと繁った竹薮がある。そこが薬師堂。
(撮影:平成25年8月4日)