報恩寺(ほうおんじ)十三仏種子月待板碑

 さいたま市立浦和博物館(埼玉県さいたま市緑区三室2458)

   最上段に刻まれた胎蔵界大日種子、その周りを取り囲む月輪は梵字光明真言。板碑は、十三仏種子を刻む月待板碑で、室町時代後期 大永二年(1522)の紀年銘がある。

報恩寺 十三仏種子月待板碑(市指定文化財、室町時代後期 大永二年 1522年、緑泥片岩、高さ 104Cm 最大幅 35Cm)

浦和博物館に展示。身部は最上段に胎蔵界大日の種子を大きく、その下二列に、残り十二仏を蓮座上月輪内に刻む。

十三仏の順序は、最下段右側 不動明王を基点として右から左へ、順次上に上がり、二段目の阿閦から最上段の大日(胎)を経由して、二段目 虚空蔵に戻る。

十三仏は、死者の追善供養のために①.初七日(不動)、.二七日(釈迦)、.三七日(文殊)、.四七日(普賢)、.五七日(地蔵)、..六七日(弥勒)、.七七日(薬師)、

.百ヶ日(観音)、.一周忌(勢至)、⑩.三回忌(阿弥陀)、⑪.七回忌(阿閦)、.十三回忌(大日)、.三十三回忌(虚空蔵)の十三仏事にわりあてられた仏・菩薩をいう。・・

最初の十仏は、閻魔王など十王の本地仏を、初七日(不動)から三回忌(阿弥陀)までに当て、この十仏に七回忌 阿閦、十三回忌 大日、三十三回忌 虚空蔵を加えたのが十三仏。

通常、最上段は虚空蔵菩薩(三十三回忌)だが、ここでは..胎蔵界大日如来(十三回忌)の種子が刻まれている。

板碑 頭部

山形は頂部を欠く、下に二条線、身部は一重線の輪郭を巻く。

輪郭内最上部、左右に日月、中央に瓔珞(ようらく)を垂らした天蓋を刻んでいる。(写真:上・下)

十三仏の最上段

⑫.胎蔵界大日如来(十三回忌)の種子「アーンク」内番号は、十三仏の順序)

最上段に大きく刻まれた胎蔵界大日如来の種子「アーンク(五点具足)の月輪は、梵字で「光明真言」を刻んでいる。

光明真言:「オン、ア、ボ、ギャ、ベイ、ロ、シャ、ナ、マ、カー、ボ、ダラ、マ、ニ、ハン、ドマ、ジンバ、ラ、ハラ、バ、リタ、ヤ、ウーン」

  ⑬.虚空蔵菩薩(三十三回忌)  ⑪.阿閦如来(七回忌)    
     (タラーク)   (ウーン)         

十三仏 二段目

順序からいえば、⑬.虚空蔵と最上段の⑫.大日が入れ替わっている。

   ⑩.阿弥陀如来(三回忌) ⑨.勢至菩薩(一周忌)   
      (キリーク)             (サク)

十三仏 三段目

   ⑧.観音菩薩(百ヶ日) ⑦.薬師如来(七七日)   
        (サ)              (バイ) 

十三仏 四段目

    ⑥.弥勒菩薩(六七日) ⑤.地蔵菩薩(五七日)    
         (ユ)             (カ)  

十三仏 五段目

    ④.普賢菩薩(四七日) ③.文殊菩薩(三七日)    
         (アン)            (マン)  

十三仏 六段目

    ②.釈迦如来(二七日) ①.不動明王(初七日)    
         (バク)              (カーン) 

十三仏 最下段

最下段右側を基点として右から左へ、初七日の不動明王から始まり最上段を経由して二段目、三十三回忌の虚空蔵菩薩で終わる。

刻銘 全文 中央刻銘:「大永二年(1522)壬午十一月廿三日」

刻銘は、中央に「奉月待供養」「大永二年(1522)壬午十一月廿三日」の紀年銘、左右一段目に「妙鏡禅尼、慶正禅尼」「妙口禅尼、祐清禅尼」、二段目に

「妙皆禅尼、妙性禅尼」「妙忍禅尼、妙祐禅尼」、三段目に「妙心禅尼、祐慶禅尼」「道観禅門、右清二郎」四段目に「彦三郎」「弥八」と刻んでいる。

女性の在俗出家者(禅尼)の法名が十名、男性の在俗出家者(禅門)の法名が一名、俗名 三名の交名が刻まれている。

月待は、十六夜・十九夜・二十三夜などの日に月の出を待ちながら飲食をともにし、月を拝む行事で、月天を祝って延命長寿、無事息災を願った。

月待行事の催される日は、 勢至の有縁日である二十三日(三夜待)が最も多く、とりわけ十一月二十三日(霜月三夜)が最も多く当板碑も十一月二十三日に造立されている。

十一月二十三日(霜月三夜)は、一年で最も昼が短い日(冬至)で、翌日から長くなり続ける。戦前では、天皇が新穀を天神地祇に勧める「新嘗祭(にいなめのまつり)」が行わ

日でもあり、その年の収穫を神に感謝し、翌年の豊作を神に祈るに最もふさわしい日でもあった。それ故、霜月三夜に村の人々が集まり、飲食を共にし延命長寿、無事息災、

来年の豊作を願う月待行事は、農業生産に根ざした現世利益の祭りであり、仏教的な意味は少なかったといえる。(「板碑とその時代」千々和 到 著、平凡社選書116。参照)・..

 浦和(うらわ)博物館 阿弥陀三尊種子板碑                          石仏と石塔-目次!

前机(まえつくえ)と三具足(みつぐそく)

前机は敷布がかけられ上に、右から燭台・香炉・花瓶の三具足が配されている。

 板碑(いたび)

*JR京浜東北線「北浦和駅東口」から東武バス「市立病院」行きに乗車、終点「市立病院バス停」下車、南側へすぐ。

(撮影:平成25年3月9日)