般若寺(はんにゃじ)(奈良県奈良市般若寺町221)
笠塔婆は、伊行末(いのゆきすえ)の嫡男 伊行吉(いのゆきよし)が、亡父の一周忌にあたり、一基は父のため、一基は生存中である母の後世のため建立した。
般若寺(はんにゃじ)笠塔婆(重要文化財、向って左:北塔総高 476Cm 、向かって右:南塔 総高 446Cm)
笠塔婆 南塔(向かって右)と北塔(向かって左) | 笠塔婆 南塔(手前)と北塔(奥) |
般若寺笠塔婆(重要文化財、鎌倉時代中期 弘長元年 1261年銘、花崗岩、北塔 総高 476Cm 南塔 総高 446Cm)
当初 寺の南方、般若野の五三昧と呼ばれた南都の惣墓入口にあった。明治の廃仏毀釈にあい、その後 明治25年に般若寺境内に移された。
笠塔婆 南塔正面 (上に釈迦三尊、下に胎蔵界五仏の種子) | 南塔背面 (上に胎蔵界大日、下に光明真言) |
南塔正面:釈迦三尊の種子(釈迦:バク、普賢:アン、文殊:マン)、下に胎蔵界五仏の種子(大日:アーク、宝幢:ア、開敷華王:アー、無量寿:アン、天鼓雷音:アク)
南塔背面:大きく胎蔵界大日如来の種子(ア)を刻み、下に光明真言(二行)を刻む。
光明真言:「オン、ア、ボ、ギャ、ベイ、ロ、シャナ、マ、カーボ、ダラ」「マ、ニ、ハン、ドマ、ジンバラ、ハラ、バ、リタ、ヤ、ウーン」
南塔、下から 笠・伏鉢・請花・宝珠
笠の軒反(のきぞり)と宝珠の形が鎌倉時代中期の特色を表す。
軒裏は、一重の垂木型と塔身を受ける造り出し、四隅に隅木を刻出する。
南塔 正面上部、釈迦三尊の種子 | 正面中心部、胎蔵界五仏の種子 |
正面上部は、 上に大きく釈迦如来の種子(バク)、下方 向かって右に普賢菩薩の種子(アン)、左に文殊菩薩の種子(マン)を蓮華座上月輪内に刻む
正面中心部に胎蔵界五仏の種子(上から、胎蔵界大日:アーク、宝幢:ア、開敷華王:アー、無量寿:アン、天鼓雷音:アク)を薬研彫する。
北塔、下方の刻銘 | 南塔、下方の刻銘 |
南塔正面 、下方に十行にわたって次の刻銘がある
「先考宋人行末者異朝明州住人、也而来日域経蔵月即大仏殿石、壇四面廻廊諸堂垣塌荒無口口、悉毀孤為口口口口口発吾朝口、
陳和卿為鋳金銅大仏以明州伊、行末為衆殿口石壇故也土匪直、也口者也則於東大寺霊地辺土、中得石修造正元二年七月十一、
日安然逝去彼嫡男伊行吉志、口三年建立一丈六尺石率都坡」〔「奈良県史16」:金石文(上)〕・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「明州の宋人石工伊行末が陳和卿とともに来朝し、治承の乱で焼けた大仏殿再興工事の石段、四面回廊、諸堂の垣塌の修復に携わったが、正元二年(1260)七月十一日
に行末は死去した。そこで嫡男の伊行吉が、卒塔婆二基を建立した。」(「奈良県史7」:石造美術)、以下北塔正面下方の刻銘に続く。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
北塔正面下方、南塔から続く刻銘が十行にわたって刻まれている
「二基以一本廻過去慈考以一本宛、現在悲母就中般若寺大石塔者為、果大工本趣口為口彼影像所写也、此口口建立也然与今以
企口口口、口上同合与力幷阿口上人修石、壇大功徳結縁畢願以此功徳、教口亡口苦偏・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、口忉利天今一
子行吉造石口都坡、詣極楽界都一切衆生口口口口口、弘長元年辛酉七月十一日伊行吉敬白」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
嫡男の伊行吉が、「父の一周忌にあたる弘長元年(1261)七月十一日に卒塔婆二基を建立し、一基は父の菩提を弔い、別の一基は現存する母の善行のため、また般若寺
大石塔(十三重塔)も伊行末一派の造立になることを示し、その功徳によって、一切衆生とともに、極楽の世界に生をうけんことを願う」(「奈良県史7」:石造美術)・・・・・・・
南塔(向かって左側面)、涅槃経に出る偈(げ)を刻む | 南塔(右側面)、法華経 安楽行品に出る偈(げ)を刻む |
南塔右側面、法華経安楽行品に出る偈(げ):「慈悲於一切 不生懈怠心 十方大菩薩 愍衆故行道」
南塔左側面、涅槃経に出る偈:「諸行無常 是生滅法 生滅滅己 寂滅為薬」
慈悲於一切 → | 不生懈怠心 → | 十方大菩薩 → | 愍衆故行道 |
法華経安楽行品に出る偈(げ)(右側面)
法華経安楽行品の偈(げ):「慈悲於一切(じひおいっさい)不生懈怠心(ふしょうけたいしん)十方大菩薩(じっぽうだいぼさつ)愍衆故行道(みんしゅうえぎょうどう)」
[ 一切を慈(いつく)しみ、懈怠の心を生ぜざれ。十方の大菩薩にして、衆を愍(あわ)れむが故に道を行ずる。 ]
諸行無常 → | 是生滅法 → | 生滅滅已 → | 寂滅為楽 |
涅槃経に出る偈(げ)(左側面)
涅槃経の偈(げ):「諸行無常(しょぎょうむじょう)」「是生滅法(ぜしょうめっぽう)」「生滅々已(しょうめつめつい)」「寂滅為楽(じゃくめついらく)」
[ 諸行は無常である。これ生滅の法である。生滅を滅しおわりて、生も滅もない寂滅を楽しみとする。 ]
北塔正面(上に阿弥陀三尊、下に金剛界五仏の種子) | 北塔背面(下に大随求陀羅尼小呪の梵文を刻む) |
北塔正面:上方に阿弥陀三尊の種子(キリーク:阿弥陀、サ:観音、サク:勢至)、中央に金剛界五仏の種子(バン:大日、ウーン、タラーク、キリーク、アク)
北塔背面:上方、月輪内に胎蔵界大日如来の種子(ア)、その下に大随求陀羅尼小呪の梵文二行を刻む。
大随求陀羅尼小呪:「オン、バ、ラ、バ、ラ、サン、バ、ラ、サン、バ、ラ、イ、ンヂリ、ヤ、ビ、シュ、ダ、ニ、ム、ム、ロ、ロ、シャ、レイ、ソワー、カー」
北塔、下から 笠・伏鉢・請花・宝珠
笠の軒反(のきぞり)と宝珠の形が鎌倉時代中期の特色を表す。
軒裏は、一重の垂木型と塔身を受ける造り出し、四隅に隅木を刻出する。
北塔 正面上部、 阿弥陀三尊の種子 | 北塔 正面中央、金剛界五仏の種子 |
正面上部は、 蓮華座上月輪内に大きく阿弥陀如来の種子(キリーク)、下方 向かって右に観音菩薩の種子(サ)、左に勢至観音の種子(サク)を刻む
正面中央に金剛界五仏の種子(上から、金剛界大日:バン、阿閦:ウーン、宝生:タラーク、阿弥陀:キリーク、不空成就:アク)を薬研彫する。
北塔(向かって左側面)、出典未詳の偈(げ)を刻む | 北塔(向かって右側面)、涅槃経に出る偈(げ)を刻む |
右側面、涅槃経に出る偈(げ):「如来証涅槃 永断於生死 若有至心聴 常徳無量楽」
左側面、出典未詳の偈:「孝養父母心 功徳最第一 是心発起者 成就自然智」
如来証涅槃 → | 永断於生死 → | 若有至心聴 → | 常徳無量楽 |
涅槃経に出る偈(げ)(右側面)
涅槃経の偈(げ):「如来証涅槃(にょらいしょうねはん)永断於生死(ようだんおしょうじ)若有至心聴(にゃくうししんちょう)常徳無量楽(じょうとくむりょうらく)」
[ 如来は涅槃を証して、永く生死(しょうじ)を絶つ。もし至心に聴くもの有らば、常に無量の楽を得ん ]
孝養父母心 → | 功徳最第一 → | 是心発起者 → | 成就自然智 |
出典未詳の偈(げ)(左側面)
出典未詳の偈:「孝養父母心(きょうようぶもしん)功徳最第一(くどくさいだいいち)是心発起者(ぜしんほっきしゃ)成就自然智(じょうじゅじねんち)」
[ 父母を孝養する心は、功徳最第一なり。この心を起せば、自然に悟りを成就すべし ]
般若寺(はんにゃじ)十三重石塔(重要文化財、鎌倉時代中期 建長五年 1253年、花崗岩、高さ 14.2m)
* JR奈良・近鉄奈良駅より奈良交通バス 青山住宅行乗車、「般若寺」下車 徒歩5分。
(撮影:平成20年3月5日、平成24年9月5日)